踏切で活躍する電気自動車

鉄道xクルマのコラボレーション!

2021/11/10
  • 社会貢献
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鉄道とクルマに共通するもの。それは、移動の楽しさを提供してくれること。安全で便利な乗り物であること。そして、電気の力で移動の可能性を広げ、より持続可能な社会に貢献すること。

そんな鉄道とクルマがコラボレーションしたら。例えば、行ったことのない街への旅行。ここの景色は電車から眺めたい。でも、ここはクルマで走りたい。考えただけでも、ワクワクしますよね。

そして今、両者のまったく新しいコラボレーションが始まっています。日本を代表する鉄道会社であるJR東日本が、日産自動車の電気自動車(以下、EV)「日産リーフ」のバッテリーを踏切装置に使用するための試行導入を行っています。

電車の運行や道路交通の安全に不可欠な踏切。そのため、踏切にはメンテナンス作業時や一時的な停電時でも正常に動作するよう、非常用電源が設置されています。現在、鉛バッテリーが使用されているこの非常用電源に、「日産リーフ」の車載バッテリーを再利用する取り組みが、南相馬市を走る常磐線の愛宕踏切で2021年1月から始まりました。

EVを社会に活かす「再利用バッテリー」

「日産リーフ」の動力源であるリチウムイオンバッテリーは、クルマが寿命を迎えるまで活用された後でも、新品時の60~80%の電力を貯蔵する能力が残っています。そのバッテリーを取り出し、再製品化することで、交換用の車載バッテリーや定置型の蓄電池など、様々な用途で再利用することができます。日産は、パートナーであるフォーアールエナジー株式会社(以下、フォーアールエナジー)とともにこの取り組みを推進しています。バッテリーを再利用すれば、新品をつくるのと比較し、CO2の排出を低減し、希少資源の使用を削減することができます。また、使用済みのバッテリーに新たな価値を与えることで、EVの価値が高まり、その普及にも繋がります。

「再利用バッテリー」のメリット

非常用電源に「日産リーフ」の再利用バッテリーを採用することは、環境への配慮だけではなく、「非常用電源の性能向上にも繋がる」とJR東日本 研究開発センター副課長の栃原 開人さんは語ります。

再利用バッテリーは、鉛バッテリーよりコンパクトなため設置性に優れ、充電時間も約1/3へと短縮されます。そして、従来3~7年だった耐用年数は、約10年と大変長持ちするようになります。さらに期待が寄せられているのが、メンテナンス作業の効率化です。

「鉛バッテリーは、目視で充電状態や劣化具合を確認する必要があり、定期的に踏切に出向いていました。一方、再利用バッテリーは、EVと同様に制御システムが搭載されており、遠隔でもバッテリーの状態が確認できるため、メンテナンス作業の効率化が期待できます。また、低電圧になる前にバッテリーの状態を把握できるので、予防保全も可能になります」(栃原さん)

踏切に活かされるクルマの「安心・安全」

「列車と一般道路の接点である踏切には、高い安全性と信頼性が求められます。フォーアールエナジーの再利用バッテリーは、踏切同様に、高い安全性と安心が求められる『クルマ』のバッテリーから開発されている。その信頼性がこの取り組みの支えとなっています。」(栃原さん)

フォーアールエナジーは、「日産リーフ」が発売された2010年に設立されました。EVの普及を見据え、再生可能なリチウムイオンバッテリーを有効活用するためです。それから10年以上が経ち、今、福島県の浪江町にある工場には、年間数千台の使用済バッテリーが運び込まれ、再製品化されています。テクニカルソリューション部の木下 拓哉さんは、同社の再利用バッテリーの安全性には「4つの特長がある」と説明します。

  1. 「日産リーフ」の実績:バッテリーを取り出す「日産リーフ」は、発売から10年以上にわたりバッテリーに起因する重大事故がゼロであること
  2. 国際規格「UL1974」:蓄電池の再利用に関する国際規格「UL1974」を取得した工程で製造していること
  3. 「日産リーフ」と同等の制御:安全性の高い「日産リーフ」で採用しているバッテリー制御の考え方を踏襲していること
  4. 防爆設計:「日産リーフ」と同様、万が一事故が起きた場合でもバッテリーの爆発を防ぐ設計をしていること

また、「日産リーフ」は世界中で販売されるため、あらゆる気候や使用環境を想定して開発されているという点も、「過酷な環境の踏切に導入する上で強みとなっています」(木下さん)。しかし、踏切のバッテリーとして使用するには、乗り越えなければならない課題もあります。それは、「雷」への対応です。

構造の違いから求められる「雷サージ」対応

EVに雷が落ちた場合、電気は車体を通じて地面へ流れ、一時的な異常電圧(雷サージ)がバッテリーに流れることを防ぎます。一方、踏切は、遮断機や警報機を制御する装置がケーブルでバッテリーと繋がっています。そのため、ケーブルを通じてバッテリーに電圧が直接流れ込む可能性があるのです。

この雷サージに対応するため、開発の段階から様々な工夫が加えられ、JR東日本やフォーアールエナジー、さらに第三者の試験機関などで様々な動作試験を重ねてきました。そうして開発されたバッテリーは、愛宕踏切に加え、常磐線、水戸線の他の踏切へと試行導入を拡大し、より多様な地域で雷サージや、列車の走行による振動の影響などの確認を進めています。

今後の展望について栃原さんは「踏切のメンテナンスにあたる現場の社員の声をよく聞いて、安心して使えるものにしていきたいです。また、鉄道において、電気で稼働するものは大小様々あります。この試行で再利用バッテリーが鉄道でも安全に使えると確認できれば、踏切以外の設備や、無線通信装置などへの採用にも期待が広がります」と語りました。

カーボンニュートラルの実現に向け、電動化の波はますます加速しています。そして、EVが普及すればするほど、使用済みのバッテリーも増えていきます。しかし、そのバッテリーが鉄道の踏切に再利用される。そんな未来を想像することができたでしょうか?

これは、EVのバッテリーを社会全体で再利用する取り組みです。再利用バッテリーの未来には、より持続可能な社会の実現に貢献する大きな可能性が広がっています。

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