「Z」の究極の乗り味を実現するテストドライバーたち

性能のファインチューニングは、あらゆる「Z」ファンのために

スピード、運転制御、安全性 - 世界トップクラスのスポーツカーに求められる要素は様々。満足のいく一台を開発するには、数え切れないほどのテスト走行が必要です。そして、そのスポーツカーの個性ともいえる「乗り味」を定義するには、自動車メーカーとして何よりエネルギーを注ぎます。

「フェアレディZ」と言えば、日本のスポーツカー史に残る人気の高い車種。その新型車には、世界中から大きな注目が集まります。そんな新型「Z」が、ファンの熱い期待に応えるパフォーマンスを実現できるよう奔走しているのが、車両実験のチームです。通常、世界各国のさまざまな条件の道路やサーキットで、数百人単位のエンジニアやテストドライバーがテスト走行を行います。

「Z」の開発をリードした日本のチーム。そして、日本と並びZファンが多いアメリカの感覚に合うよう、最後の「味付け」を行ったアメリカのチーム。今回は、両者のコラボレーションにおけるそれぞれの想いと秘話を紹介します。

国境を越えたコラボレーション

「初心者でも、誰もが400馬力を楽しめる。そんな、運転しやすいスポーツカーにすることを目指しました。」と語るのは、当時の車両実験の責任者を務めた、應請 知幸です。以前の「Zらしさの本質」でも語られている通り、コンセプトは「息の合ったダンスパートナー」。それは、優雅さとしなやかさを兼ね備えた乗り味だと言います。

新型「Z」は、主に日本で車両開発や試作を行いました。そして、アメリカのお客さま向け車両については、日本で一定のレベルに仕上げてから車両をアメリカに送り、現地で求められるパフォーマンスを発揮できるかを検証しました。

通常は、日本のチームメンバーが現地に赴いて一緒に仕上げていきますが、「Z」の場合、新型コロナウイルス感染症対策の渡航制限により、それが実現できませんでした。そこで、都度アメリカ側が様々な提案をし、日本側で対策を決め、その仕様を改めて現地側が確認する、というやり取りを、リモートで幾度も繰り返したといいます。

「アメリカの車両実験チームは、外気温40度でのサーキット走行や標高1,500m近い高地でのハード走行など、日本にはなかなかない環境下で細かな課題を見つけてくれました。現地のお客さまに『ダンスパートナー』として受け入れてもらえるかを検証するにあたり、これはとても重要なことでした。本来、実際のものを見ずに調整を行うのは難しいのですが、現地で必要なデータを計測してもらい、細かく確認しあう。そうすることでリモートでも状態を把握することができましたし、お互いを信じて進めました。」(應請)

車両実験部シニアマネージャー(当時)應請 知幸

一方、アメリカで車両実験や性能開発を務めるクリスチャン・スペンサーは、プロジェクトについてこう語ります。

「『新型Z』に乗るということは、これまでのモデルの伝統を感じつつ、Zならではのユニークな乗り味を体感し、そして楽しく快適でなければなりません。アメリカのお客さまが期待するものは何かを判断基準とし、どんな場面でも運転する喜びが感じられるような完全なパッケージを目指し、日本のチームとやりとりを重ねました。」

コロナ禍でも、「Z」をもっと良くしていきたいという想いの元、国境を越えて両者の綿密なコミュニケーションが行われていたのです。

日産テクニカルセンターノースアメリカ 車両実験 シニアマネージャー クリスチャン・スペンサー

性能の決め手となった「魔法」の部品とは?

では、どのようにアメリカでは「乗り味」のファインチューニングを行っていったのでしょうか?

まずは、「乗り味」の重要な要素である、操舵フィーリング。開発車両について、アメリカ向けにもう少し改善したいとフィードバックを行ったのは、シャシー性能担当のブランドン・ラボルドでした。

シャシー性能担当 ブランドン・ラボルド

「新しいシャシーの一部は、先代モデルから引き継がれたものです。しかし、路上での感触や性能は先代とは比べものにならないレベルに仕上がっていて、間違いなくドライバーをワクワクさせると思います。」と語るラボルド。一番のポイントは新たに開発されたタイヤとのマッチングだったと言います。

「グリップ力、初期応答性などがすべて改善されたうえ、まるで魔法が起きたかのように室内の騒音レベルも大幅に低減され、快適性も向上しました。このタイヤが、サスペンションやステアリング、新型Zの性能全体を支える基盤となったと言えます。」

実は新型「Z」には、接地面を楕円形状とした新開発タイヤを採用しています。これにより、転舵時の接地長を長くとることができ、グリップ力を確保し、かつ乗り心地や音振性能の両立を実現しました。このタイヤ開発やサスペンションセッティングは日本で行われましたが、アメリカで操舵フィーリングのファインチューニングを加えたことで現地好みの走りが実現されていったのです。

また、新型「Z」では、6速マニュアル(MT)と、9速オートマチック(AT)の2つのトランスミッションがあります。スポーツカーファンであればMTを操るのはまさに「醍醐味」。6速MTは、ドライバーの意のままのスムーズなシフトチェンジを可能としています。一方、新たに開発された9速ATでは、ここでもアメリカ現地のニーズに合わせる微調整が行われました。

9速ATには、「Z」専用に設定されたスポーツモードがあり、その調整に力を入れたと語るのは、パワートレイン性能エンジニアであるポール・カレンです。スポーツモードの性能について、彼はこう語ります。

「システムがドライバーのスタイルや許容範囲を学習して、判断できるような制御が追加されています。このデータに基づいて、ギアチェンジを行う仕組みです。スポーツモードでは、ギアチェンジの回数を減らし、シフトアップするポイントを広げる一方で、ブレーキングではシフトダウンして、マニュアル車と同等のパフォーマンスを実現します。テストドライバーの中には、サーキット走行で、トランスミッションをDレンジにしたまま走行する人もいたほどです。こう聞けば、皆さんもその性能が想像できるでしょう。」

走行実験中のファインチューニングでも、日本には無い高地でのワインディング等で、予想していなかった課題が見つかりました。そしてその都度、カレンのチームと日本の開発チームは連携し、スロットルを踏み込むなどアグレッシブな動きをした際に「求めれば求めるほど返してくれるクルマ」を目指して、課題を解決していきました。

6速マニュアルトランスミッション

9M-ATx(9速オートマチックトランスミッション)

限界までテストを行う、車両実験チームの誇りとは?

車両実験を担うテストドライバーたちは、全員が日産独自の社内ライセンスを持ち、日産内のテストセンターで、加速試験やハンドリング試験、音振レベルや乗り心地の測定など、さまざまなテストを行います。また、公道に出て、市街地や高速道路、山道など、実環境の設定でテスト走行を行う場合もあり、テストドライバー全員に高度な運転経験とスキルが求められます。レーシングドライバー等を雇うことはなく、日産の従業員である彼らが日々限界まで車両をテストし続け、その究極の乗り味を求めて細部にわたって仕上げていきます。

そして、今回開発に携わったメンバー全員が口を揃えたのは、「Zのようなクルマに関われたことは特別な経験であり、その一部になれたことを光栄に思う。」ということでした。

「共に開発に関わったメンバーは戦友のようなもの。日産社内、さらには自動車業界全体を活気づけられるような存在にしたいという想いで、全力で魂を込めてつくり上げました。いつかは乗ってみたい。そのように言われると、ただただ嬉しいです。今見ても、初代Zはかっこいいですよね。新型『Z』も、数十年後にそんなクルマになっていてほしいと思っています。」(應請)

「『Z」は、50年以上にわたり、アメリカの自動車文化の一翼を担ってきました。新型の開発で最も重要だったのは、何世代にもわたる熱狂的なファンの期待に応えるクルマを送り出せるかということでした。実は、1950年代、私の曽祖父は、日産のパワートレインアドバイザーを務めていました。ですから私自身、個人的にも、受け継ぎたい大切な想いがあるのです。」(クリスチャン・スペンサー)

日産が誇るスポーツカー「Z」の伝統は、これからも引き継がれていきます。