ビジュアル・触感・音 スイッチを超える

日産初のハプティックスイッチ

2021/08/06
  • クルマ・技術
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皆さんは、「ハプティックスイッチ」という言葉をご存じですか?「ハプティック」とは「触覚」という意味。押すと、振動などの触覚を通じてフィードバックを返してくれるスイッチのことです。このハプティックスイッチが、日産車初の試みとして、新型クロスオーバーEV「日産アリア」に採用されました。今回は、ハプティックスイッチの採用に向けて奔走したデザインと開発のチームに製作秘話を聞いていきます。

デザインコンセプトに合う内装のために

日産アリアに採用されたデザインコンセプト「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャーリズム」。その一部に、日本ならではのミニマル指向の一つである「間」があります。インテリアも、「間」を大切にし、毎日使うお客さまが飽きることなくずっと使えるようデザインされています。機能の複雑さが悪目立ちしない、すっきりとしたインテリア。室内に乗り込むたびに、静かな、それでいてワクワクする高揚感を感じていただけると思います。

その中で、目を引くのがダッシュボードを横切るように設置された1枚の木目調パネルです。クルマの電源がOFFの間は、車室内を横切るシックなグレーの木目調パネル。しかし、ひとたび電源をONにすると、中央に7つのアイコンが白く、くっきりと点灯します。

「『日産アリア』を、日産の次世代のフラッグシップモデルにしたいという強い想いがありました。また、『タイムレス・ジャパニーズ・フューチャーリズム」というデザインコンセプトにあわせたシームレスなデザイン表現を行うには、テクノロジーにおいても進化が欲しかった。そんな想いからハプティックスイッチを使いたいと、デザインチームから開発チームに提案しました」とデザインマネージャーの田子日出貴が語りました。

「シームレス」という言葉通り、この木目調パネルには、ボタンどころか、一切の切れ目もありません。「従来の指で押すタイプのメカニカルなスイッチが空間の中に入ったり、パネルに切り込みがあったりすると、どうしてもシームレスな世界観が壊れてしまう。そのため、企画の初期段階から、スイッチ類は一枚板のパネルに静電容量スイッチを配する。それも、フィードバックのあるハプティックスイッチにしたいという考えでスタートしました」(デザイナー・田子)

世界で一番大きな車載スイッチの部品

「切れ目のない大きな一枚パネルを使う」という絶対条件。そこから生じる制約を解決していったのが、開発・実験チームでした。目指したのは、一枚板に配置されたスイッチのアイコン部分に触れると、そこから確実に指先に振動が伝わるようにすること。また、触れた際の物理音が、聴き心地の良い音であること。ハプティックスイッチの裏には、振動を発生させる太鼓のバチのようなものが付いていて、スイッチに触れると必然的に物理音の「コンッ」という音がしてしまうのです。

ヒューマンマシーンインタフェースの性能評価を担当した安田肇はこう説明します。「振動と音は切り離せません。ハプティックスイッチでは、指先へ触覚でフィードバックするためにスイッチを振動させます。そのときに、空気を少なからずたたいて、音が出てしまうのです。最初は振動を重視してスイッチを設計したところ、ひどい音がして。連日、何が音源で、どうすればもっと心地よい『音』が出るのか、分析と実験を続けました。おかげで、主張し過ぎない押し加減にあったちょうど良い『音』になったと思います。」

そこまでこだわった音ですが、走行中は聞こえないのでは?と聞いてみました。

「いえ、室内の静かなアリアだからこそ聞こえてしまうのです。それは私たちもびっくりしました。最終的には、音を気にかけたことで、触感もマイルドになり、スイッチとしての品質も向上したと思います。」(性能評価・安田)

「ミクロの目を持つ」職人と木目調を極める

自然な「木目調」も、シームレスに空間に溶け込んでいるものの一つ。この「木目調」は、まずプラスチックに木目の柄を印刷し、その後、本物の木目に近づけるために、「道管」という木にあるような溝(シボ)を入れて実現しています。このシボ入れには、高度な職人技が必要でした。

「白や赤、青に光るスイッチの部分にシボの溝が重なると、光の熱で木目がひび割れてしまうのです。そのため、そこにシボは入れないようにしました。最初は、『スイッチ周辺の道管をまるごと間引く』という案もあったのですが、そうすると木目が不自然になる。そこで、0.1ミリにも満たない道管を、アイコンと重なる箇所だけ間引く作業を『ミクロの目を持つ』職人と一緒に行いました。世界初の試みです」(デザイナー・田子)

ぜひ、実際に展示されたアリアで、目を凝らしてご覧ください。

物理スイッチ VS ハプティックスイッチ

アリアのハプティックスイッチは、デザイン性だけでなく機能性も担保されています。開発の初期段階から、従来の物理スイッチ同様の使いやすさを追求するにはどうすればよいのか。何をタブレットのナビ画面内に表示させるのか。そして、何をナビ画面の外で操作するのか、議論が重ねられました。

「例えば、法規で設置が定められているデフロスタースイッチ、リアデフォッガースイッチ、ファンスイッチは、物理スイッチでも、画面上のデジタルスイッチでも良いことになっています。」と内装設計の髙木亮太朗が語ります。
「アリアでは、これらの法規スイッチは特に緊急度が高いものとしてすぐ操作できるよう、ドライバーから近いところに、ハプティックスイッチとしてレイアウトしました。ナビ画面内に含めると、エアコン画面を『呼び出す』というひと手間がかかるからです。」

最終的に、使用頻度の高い機能を検討し、パネル上のスイッチは合計7つとなりました。

意図しないスイッチを押してしまわないための工夫も凝らされています。まずは、スイッチ数を厳選しました。その上で、「スイッチのサイズやスイッチ間の距離、さらには静電感度(反応感度)など、いろいろと工夫しました。そして、従来のスイッチと同じように、間違えることなく操作できる(触れる)だけでなく、使いやすさも追求しました」と実験をとりまとめた五十嵐智貴は語りました。

また、ユーザーの好みにあわせて、反応を4段階で調整することができます。例えば、手袋をした手でも、ネイルをしている方が押すようなソフトタッチでも、しっかりと反応するのです。

「今後のクルマは、シームレスでシンプルな見た目が主流になっていくと考えています。必要なスイッチをハプティックにしていけば、よりシームレスなデザインに近づけられると思います。」(内装設計・高木)

日産が初めて採用したハプティックスイッチ。目指したのは、使いやすさとデザイン性を融合した、全く新しいユーザーインタフェースを提供すること。アリアはこのスイッチで、今までなかった、ワクワクする乗車体験をお客さまにお届けします。

開発グループのメンバー
(左から)内装設計開発・髙木 亮太朗、HMIシステム性能評価・五十嵐 智貴、HMIシステム性能評価・安田 肇

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